生まれてきた赤ちゃんが上手く母乳を飲めないのは、母乳の分泌が悪いからだと思い込んでいた母親は、小児科をはじめとした数か所の医療関係機関に相談に行かれたという。
哺乳瓶でミルクをあげても体重が思うようには増えず、ある小児科医には「成長曲線の下限に近いですが、枠内には収まっていますから問題ないですよ」と言われてきたとのこと。
それでも母親としては納得できず、遂には当医院のブログを見てこちらの医院に問い合わせをされたという。
5ヶ月を過ぎるところということで急遽診察することにしたが、舌の可動域は狭く、明らかな舌小帯短縮症であり、加えて上唇小帯も乳頭歯肉(歯槽頂)に達しており、これでは哺乳はできない。
赤ちゃんの出生後は、本能的に母親の乳首を探索し、乳首に達すると舌と唇で乳首の先端を硬口蓋と軟口蓋の境目付近まで咥えこむ。
すると舌は前後方向へ波のように伝搬する収縮運動によって哺乳を開始する。
乳首は舌によって硬口蓋に押し付けられ、乳汁は舌の前方から後方へと運ばれる。
従って舌と口唇が乳頭および乳輪を十分に包み込み、舌が口蓋近くまで持ち上がらないと効果的な授乳はできない。
舌小帯短縮症や上唇小帯短縮症が哺乳に不向きな所以である。
ご両親様にはこのことをしっかりとご理解して頂き、本日小帯リリースを無麻酔科にてエルビウム.Cr:YSGGレーザー(波長2,780nm)を用いて行った。
舌小帯リリースが出来た瞬間に舌が前方へ動き出し、呼吸が楽になったことによって鳴き声が変わり、顔色も赤みを帯びてきた。
術後は母親に哺乳瓶で哺乳をして頂くと、「えっ、こんなに飲み始めるんですか!吸い付きが今までと全く違います!」。父親からも「こんなに力強く飲むことはなかったよね。目もパッチリ開いているしね~」と感想を述べられていた。これが臨床である。
決して簡単なオペではないが、臨床医としてすべき準備を踏んで臨めば結果はついてくる。上手く哺乳ができないのは約9割で母親側ではなく赤ちゃんの舌小帯を含めた口腔機能異常と捉えています。
論文ベースでは手術に関しては賛否はありますが、根本原因を放置した結果、様々な代償的原因が生まれ、その結果取り返しのつかない結果的原因になるまで何もしないでいることが、果たして医療なのかと考えさせられます。