これからの歯科医療

 う蝕(むし歯)、歯周病をある程度予防できる時代になった今、歯科医療従事者が意識すべきことは不正咬合(かみ合わせがよくないこと)を治すのではなく、不正咬合の予防である。

 歯科の二大疾患であるう蝕、歯周病は治療をすることで決して元の健康な状態に戻るのではなく、あくまで歯の延命治療を行っているに過ぎない。両疾患とも細菌が関与していることは共通項であるが、中には(場合によってはその多くが)咬合(かみ合わせ)による歯の硬組織に掛かる外力(外傷)によって歯の動揺、クラックが入りう蝕が進行することが分かってきている。

 ならば対処療法の繰り返しをするのではなく根本原因を取り除くかみ合わせの治療、いわば機能的歯列矯正治療が必要なのであり、50歳未満で複数の奥歯の神経を抜く処置、あるいは抜歯をされている場合には、かみ合わせを疑ってみる必要がある。

 また、いい歯をされているにも関わらず突然ある歯が激しい痛みに襲われた経験のある方なども、不正咬合のある状態で夜間の無意識下による歯ぎしりによって上下の歯が局所的に強く当たることを繰り返す咬合性外傷による痛みが誘発されたことが考えられるのである

 普段からかみ合わせを意識する人はいないと思いますが、極めて理想的な咬み合わせをされている方はほとんどいらっしゃらないのが今の日本人の現状です。ではだから良いということにはなりません。

 生まれつき身体の形や機能に異常が見られる先天異常の一つに、指同士がくっついている合指症、指の数が多い多指症があります。手は人の目に触れやすい場所なので気になりやすいですが、適切な治療によって見た目と機能の改善が見込めます。

 同じように歯並びがガタガタの場合、口腔機能に支障をきたすのは勿論ですが、考えなければならないのはなぜ歯並びが悪くなったのかということです。かみ合わせは遺伝しませんが、かみ合わせを形成する個々の因子、たとえば筋肉の動きなどは親子間で遺伝します。

 従って口腔周囲筋の筋機能に異常な動きがあればその習癖を改善させることが必要なのであり、子供であれば筋機能トレーニングで顎の成長不全を防ぎ歯が生えるスペースを確保する、成人であれば骨の成長は済んでいるのでワイヤーの力によって歯列形態を改善させたうえで筋機能の習癖を取りのぞくことを行い、生涯にわたって良好な口腔機能を維持させなければならないのです。